はじめに
「量子コンピュータ」という言葉を、最近よく見かけるようになりました。
AIブームが一段落したと思ったら、次は量子。ニュースでは「量子関連株が急騰」「次世代技術の本命」といった見出しが並びます。
正直、私もよく分かっていません。
でも、投資家として無視できない空気感があるのも事実です。「置いていかれたくない」という焦りと、「でも本当に今買うべきなのか?」という迷い。
この記事では、量子コンピュータが投資テーマとして語られる理由と、実際の技術進捗、そして株式投資として見たときの難しさを整理します。
「流行っているから買う」の前に、一度立ち止まって考えてみたい。そう思って、この記事を書きました。
この記事で分かること
- 量子コンピュータが注目される理由
- 技術の現状と実用化のタイムライン
- 投資テーマとしての現実と難しさ
- 冷静に向き合うための考え方
なぜ今、量子コンピュータが話題なのか
AIの次の成長テーマとして名前が出てくる
2023年からのAIブームで、多くの投資家が「次世代技術」への関心を高めました。
ChatGPTをはじめとする生成AIは、すでに実用化され、企業の売上にも貢献しています。
では、その次は何か。
そこで名前が挙がるのが「量子コンピュータ」です。AI以上にSF的で、AI以上に「世界を変える」と言われる技術。
メディアでも、投資レポートでも、「次の成長テーマ」として量子コンピュータが語られるようになりました。
株価が動いたニュース
実際、量子関連企業の株価は大きく動いています。
2024年後半には、量子関連のニュースを受けて一部銘柄が急騰するケースが見られました。技術発表があれば株価が跳ね、提携ニュースが出れば関連株全体が買われる。
こうした値動きを見ると、「乗り遅れたくない」と感じるのは自然なことです。
でも、ここで一度立ち止まる必要があります。
「よく分からないけどすごそう」という空気
正直に言います。
量子コンピュータについて、私は詳しくありません。おそらく、この記事を読んでいる多くの方も同じだと思います。
「0と1が重なる」「超高速計算」「暗号を破る」──こうしたキーワードは聞いたことがある。
でも、具体的に何ができるのか、いつ実用化されるのか、どの企業が勝つのか。これらの問いに、明確に答えられる人は少ないはずです。
「よく分からないけどすごそう」
この空気感が、投資テーマとしての危うさでもあります。
そもそも量子コンピュータとは何か(超ざっくり)
従来のコンピュータとの違い
量子コンピュータを理解するために、まず従来のコンピュータとの違いを押さえます。
従来のコンピュータは、すべての情報を「0」か「1」で処理します。これは「ビット」と呼ばれる単位です。
例えば、「8ビット」なら256通り(2の8乗)の状態を表現できます。計算するときは、この256通りを順番に調べていきます。
量子コンピュータは、「量子ビット(キュービット)」という単位を使います。
この量子ビットは、「0」と「1」が同時に存在する「重ね合わせ」という状態を取ることができます。
「0か1」ではなく「重ね合わせ」
ここが、量子コンピュータの最大の特徴です。
従来のコンピュータが「0か1」を順番に調べるのに対し、量子コンピュータは「0でもあり1でもある」という量子重ね合わせ(superposition)の状態を利用して、複数の可能性を同時に計算できます。
理論上、これによって特定の問題を圧倒的な速度で解けるようになります。
ただし、これは「すべての計算が速くなる」という意味ではありません。
得意な分野がかなり限定されていること
量子コンピュータは万能ではありません。
得意なのは、「大量の可能性を同時に調べる必要がある問題」です。
例えば:
- 創薬(分子の組み合わせを探索)
- 材料開発(最適な構造を見つける)
- 金融最適化(ポートフォリオの最適解を探す)
- 暗号解読(素因数分解)
逆に、普通のPCが得意な「順次処理」や「単純な計算」は、量子コンピュータの得意分野ではありません。
つまり、量子コンピュータは「なんでも速くなる魔法の箱」ではなく、「特定の問題に特化した専用機」だということです。
期待されている理由(なぜ夢が語られるのか)
創薬・材料開発・金融最適化・暗号
量子コンピュータが「世界を変える」と言われる理由は、その応用範囲にあります。
創薬:新薬の開発には、膨大な分子の組み合わせをシミュレーションする必要があります。現在のスーパーコンピュータでも何年もかかる計算が、量子コンピュータなら数日で終わる可能性があります。
材料開発:バッテリー、半導体、新素材。これらの開発も、量子シミュレーションによって劇的に加速するかもしれません。
金融最適化:リスクとリターンを最適化する計算は、金融業界にとって極めて重要です。量子コンピュータは、この分野でも期待されています。
暗号:現在の暗号技術の多くは、「素因数分解が困難」という前提で成り立っています。量子コンピュータがこれを破る可能性があるため、新しい暗号技術(耐量子暗号)の開発も進んでいます。
国家・GAFA級企業が研究投資している
量子コンピュータの研究には、巨額の資金が投じられています。
Google、IBM、Microsoft、Amazonといったテック大手は、すでに量子コンピュータの研究開発を進めています。
中国も国家戦略として量子技術に投資しており、アメリカとの技術競争が激化しています。
こうした「大企業・大国が本気で取り組んでいる」という事実が、投資家の期待を高めています。
理論上は「世界を変える」可能性がある
ここまで読んで、「すごい技術だ」と感じた人も多いと思います。
理論上、量子コンピュータは世界を変える可能性があります。創薬が加速すれば、難病の治療法が見つかるかもしれない。材料開発が進めば、エネルギー問題が解決するかもしれない。
だからこそ、「次のAI」として語られるのです。
でも、ここで冷静になる必要があります。
現実:今はどこまで来ているのか
実用化はまだ限定的
ここが、最も重要なポイントです。
量子コンピュータは、完全な実用段階には達していません。
GoogleやIBMは量子コンピュータを開発し、AWSのBraketやMicrosoftのAzure Quantumなど、クラウド経由で量子計算を試せる環境も登場しています。
ただし、これらは主に研究・検証目的にとどまっており、企業が実際のビジネスで量子コンピュータを使い、利益を上げている例はほとんどありません。
エラー率・冷却問題・コスト
量子コンピュータの実用化を阻む壁は、技術的に非常に高いです。
エラー率:量子ビットは非常に不安定で、わずかな環境変化でエラーが発生します。このエラー率を下げるのが、最大の課題です。
冷却問題:超伝導方式の量子コンピュータでは、約10ミリケルビン(絶対零度に近い温度)まで冷却する必要があります。この冷却装置だけで、巨大なコストと設備が必要です。
コスト:量子コンピュータ1台の開発・運用コストは、億単位です。これを商業的にペイさせるのは、まだ難しい状況です。
商業利用は実験段階が中心
現在、量子コンピュータを「使っている」企業の多くは、「将来に備えた実験」をしているに過ぎません。
実際に売上や利益を生み出しているケースは、極めて限定的です。
つまり、量子コンピュータは「収益化フェーズ」ではなく、「技術検証フェーズ」にあるということです。
投資テーマとして語られるスピードと、技術の進捗には、大きなギャップがあります。
株式投資として見たときの難しさ

どの企業が勝つか分からない
量子コンピュータ関連企業に投資する場合、最大の問題は「どの企業が勝つか分からない」ことです。
Googleなのか、IBMなのか、それとも新興企業なのか。技術の方向性も、ハードウェアなのかソフトウェアなのか、まだ定まっていません。
AI分野では、NvidiaやMicrosoftといった「勝ち組」が比較的早く明確になりました。
でも、量子コンピュータは、まだそのフェーズに達していません。
技術進歩と株価が直結しない
技術が進歩したからといって、株価が上がるとは限りません。
研究開発には巨額のコストがかかり、その多くは費用として計上されます。短期的には、むしろ業績を圧迫する可能性があります。
「技術的なブレイクスルー」と「投資リターン」は、必ずしも一致しないのです。
研究成功=利益ではない
量子コンピュータの研究が成功したとしても、それが利益に結びつくかは別の話です。
特許を取得しても、ライセンス収入が得られるとは限りません。技術を開発しても、他社に先を越されるかもしれません。
「将来すごい技術」と「投資として儲かる」は、まったく別の問題なのです。
AIとの違いを軽く触れる
ここで、AIとの違いを整理します。
AIは、すでに売上・利益が出ています。ChatGPTは有料会員を獲得し、企業向けAPIは収益化されています。
AI分野で「勝ち組」が明確化したのは、収益化が見えてからです。
量子コンピュータは、「将来の可能性」に対する投資です。収益化のタイムラインが見えていない段階で、勝者を予測するのは極めて難しい。
この違いは、投資判断において極めて重要です。
それでも「投資テーマ」になり得るケース
超長期(10〜20年)視点
ここまで読んで、「じゃあ量子コンピュータには投資できないのか」と思った人もいるかもしれません。
そんなことはありません。
ただし、投資するなら「超長期視点」が必要です。10年、20年単位で待てるかどうか。
短期的なリターンを期待するなら、量子コンピュータは不向きです。
ポートフォリオの一部
量子コンピュータに投資するなら、「ポートフォリオの一部」として考えるべきです。
全資産を量子関連に投じるのは、リスクが高すぎます。
「将来のオプション」として、資産の5〜10%程度を割り当てる。これが現実的な戦略です。
本命は「量子そのもの」より周辺(半導体、冷却、クラウド)
実は、量子コンピュータ「そのもの」に投資するより、「周辺領域」に投資する方が現実的かもしれません。
半導体:量子コンピュータにも、制御用の半導体が必要です。
冷却技術:量子コンピュータの冷却装置は、巨大な市場になる可能性があります。
クラウド:量子コンピュータは、クラウドサービスとして提供される可能性が高いです。AWSやAzureのような既存のクラウド企業が、量子サービスを提供するかもしれません。
こうした「量子を支えるインフラ」に投資する方が、リスクとリターンのバランスが取れている可能性があります。
私はどう考えるか
今は「理解フェーズ」
私自身、量子コンピュータに投資していません。
理由は、「まだ理解が足りない」からです。
技術の進捗、企業の競争力、収益化のタイムライン。これらを理解しないまま投資するのは、ギャンブルに近いと感じています。
無理に買う必要はない
量子コンピュータが話題になっているからといって、無理に買う必要はありません。
「置いていかれたくない」という焦りは分かります。でも、焦って買った投資は、たいてい失敗します。
理解できないものには、投資しない。これは、投資の基本です。
AI・インデックスが軸でいい
私の投資の軸は、インデックス投資です。
S&P500やオルカンに積立を続けることで、世界経済全体の成長を取り込む。これが、最も確実な戦略だと考えています。
量子コンピュータが本当に世界を変える技術なら、いずれインデックスの中に組み込まれます。
わざわざ個別銘柄を選ぶ必要はありません。
興味があるなら”勉強代枠”
それでも、「量子コンピュータに投資したい」と思うなら、「勉強代枠」として考えるのが良いと思います。
資産の1〜2%程度を、勉強のために投資する。失っても生活に影響しない金額で、技術の動向を追いながら学ぶ。
これなら、仮に失敗しても「授業料」として納得できます。
ここまでの内容を、3行でまとめます
- 量子コンピュータは夢のある技術だが、実用化はまだ先
- 投資テーマとしては時間軸が長く、リスクも高い
- 今は「期待で買う」より「理解する」段階
まとめ:冷静に向き合うための考え方

量子コンピュータは、確かに「世界を変える」可能性がある技術です。
でも、投資として見たとき、今すぐ買うべき理由は多くありません。
実用化のタイムラインは不透明で、どの企業が勝つかも分からない。技術が進歩しても、それが利益に結びつくとは限らない。
「次のAI」と言われていますが、AIとは状況が大きく異なります。
もちろん、超長期視点で「将来のオプション」として投資するのは、ひとつの戦略です。
でも、それは資産の一部にとどめるべきです。
私自身は、今は「理解フェーズ」だと考えています。無理に買う必要はない。インデックス投資を軸に、淡々と積立を続ける。
興味があるなら、勉強代として少額を投じてみるのもいいかもしれません。
大切なのは、「流行っているから買う」ではなく、「理解してから判断する」ことです。
量子コンピュータは、まだ夢の段階にあります。その夢に投資するかどうかは、慎重に考えるべきです。
学んだこと
この記事を通じて、私が考えたことは3つです。
- 「次のAI」と言われる技術は、AIとは状況が大きく異なる
- 技術の進歩と投資リターンは別物
- 理解できないものには投資しないのが基本
免責事項
投資に関する情報について 本記事で紹介している内容は、執筆時点(2025年12月)の情報に基づくものです。技術の進捗や市場環境は変化する可能性があります。投資判断は自己責任で行ってください。
技術情報について 本記事の量子コンピュータに関する説明は、一般的な理解を促すために簡略化しています。専門的な詳細については、学術論文や専門書をご参照ください。
個人の経験について 本記事に記載されている筆者の考え方は個人的なものであり、すべての方に当てはまるものではありません。
専門家への相談 投資判断については、ファイナンシャルプランナーや証券アドバイザーなどの専門家にご相談されることをお勧めします。
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