はじめに
「日本企業はROEが低い」
「ROE改善が株価上昇のカギ」
投資ニュースで、こんなフレーズを見かけることが増えた。PBR1倍割れ問題が注目される中、その根本原因として「ROEの低さ」が指摘されることが多い。
ROEは、企業が株主のお金を使ってどれだけ効率よく稼いでいるかを示す指標だ。PERやPBRと並んで、企業の実力を測る重要な物差しとなっている。
この記事では、ROEの基本的な仕組みから、なぜ日本企業のROEは低いのか、そしてPER・PBRとの関係まで解説する。
この記事の結論
- ROEとは「株主のお金(自己資本)でどれだけ利益を出したか」を示す指標
- 日本企業のROEは約8〜10%で、米国企業(約15〜20%)と比べて低い
- ただし、ROEが高ければ良いとは限らない。財務レバレッジや持続性も考慮する必要がある
ROEとは何か
結論から言うと、ROEとは「株主が出資したお金(自己資本)に対して、どれだけの利益を生み出したか」を示す指標です。
計算式
ROE = 純利益 ÷ 自己資本 × 100(%)
たとえば、自己資本が1,000億円で、純利益が100億円の企業があるとします。
ROE = 100億円 ÷ 1,000億円 × 100 = 10%
この場合、「株主のお金を使って10%の利益を生み出した」ということになります。
ROEが意味すること
ROEは「Return On Equity」の略で、日本語では「自己資本利益率」と呼ばれます。
自己資本とは、株主が出資したお金と、これまでの利益の蓄積(内部留保)の合計です。つまり、「株主のもの」である資金を指します。
ROEが高い企業は、株主のお金を効率よく使って利益を上げている。逆にROEが低い企業は、株主のお金を有効活用できていない、と評価されます。
具体例で理解する
同じ純利益100億円のA社とB社を比較してみましょう。
|企業 |純利益 |自己資本 |ROE|
|:-:|—-:|——:|–:|
|A社 |100億円|500億円 |20%|
|B社 |100億円|2,000億円|5% |
純利益は同じでも、A社はROE20%、B社はROE5%です。
A社は少ない資本で効率よく稼いでいる。一方、B社は資本をたくさん抱えているのに、それに見合った利益を出せていない。投資家から見れば、A社の方が「稼ぐ力」が高いと評価されます。
ROEの目安と見方
結論から言うと、ROEは「8%以上」が一つの合格ラインとされています。ただし、業種や市場によって適正水準は異なります。
一般的な目安
| ROE | 一般的な評価 |
|---|---|
| 5%未満 | 低い(資本効率に課題あり) |
| 5〜8% | やや低い |
| 8〜10% | 平均的な水準 |
| 10〜15% | 高い(効率的に稼いでいる) |
| 15%以上 | 非常に高い |
※あくまで目安であり、業種によって大きく異なります。
なぜ8%が基準なのか
「8%」という数字には根拠があります。
投資家が株式に求めるリターン(株主資本コスト)は、一般的に6〜8%程度とされています。ROEがこの水準を下回ると、「株主の期待に応えられていない」と判断されます。
日本では、経済産業省が2014年に公表した「伊藤レポート」で「ROE8%以上を目指すべき」と提言したことで、8%が一つの基準として広く認識されるようになりました。
日本企業 vs 米国企業のROE比較
| 市場 | 平均ROE |
|---|---|
| 日本(TOPIX) | 約8〜10% |
| 米国(S&P500) | 約15〜20% |
| 欧州 | 約10〜12% |
日本企業のROEは、米国企業の約半分の水準です。これが「日本株は割安(PBRが低い)だが、買われない」理由の一つとされています。
ROEが低いということは、株主のお金を効率よく使えていないということ。いくら資産があっても、稼ぐ力がなければ株価は上がりにくいのです。
なぜ日本企業のROEは低いのか
結論から言うと、日本企業のROEが低い理由は「利益率の低さ」と「過剰な自己資本」の2つに集約されます。
理由1:利益率が低い
日本企業は、売上に対する利益率(売上高利益率)が低い傾向にあります。
|市場|売上高純利益率|
|:-|:—–:|
|日本|約4〜6% |
|米国|約8〜12% |
同じ売上でも、残る利益が少なければROEは低くなります。
日本企業は「薄利多売」のビジネスモデルが多く、価格競争に陥りやすい傾向があります。また、人件費や研究開発費を利益より優先する文化も影響しています。
理由2:自己資本が過剰に積み上がっている
ROEの計算式を見ると、分母は「自己資本」です。
ROE = 純利益 ÷ 自己資本
分母が大きくなれば、ROEは下がります。
日本企業は利益を配当や自社株買いに回さず、内部留保として積み上げる傾向があります。2023年度末の日本企業の内部留保は約600兆円を超え、過去最高を更新しています。
「将来の不安に備えて現金を持っておきたい」という経営者の意識は理解できますが、過剰な内部留保は資本効率を下げ、ROEの低下につながります。
理由3:株主還元への意識が低かった
欧米企業と比べて、日本企業は長らく「株主」よりも「従業員」や「取引先」を重視する傾向がありました。
近年は東証の要請もあり、増配や自社株買いを積極的に行う企業が増えています。しかし、歴史的に見ると、株主還元への意識の低さがROEの低迷につながってきました。
関連記事:PBR(株価純資産倍率)とは?1倍割れの意味と投資判断への活かし方
ROEが高ければ良いとは限らない
結論から言うと、ROEは高いほど良いわけではありません。「なぜ高いのか」を見極めることが重要です。
財務レバレッジの罠
ROEは、以下の3つの要素に分解できます(デュポン分析)。
ROE = 売上高利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
- 売上高利益率:売上からどれだけ利益を出せるか(収益力)
- 総資産回転率:資産をどれだけ効率よく使っているか(効率性)
- 財務レバレッジ:自己資本に対してどれだけ借金しているか(負債の活用)
問題は3つ目の「財務レバレッジ」です。
借金を増やせば、自己資本は相対的に小さくなり、ROEは上がります。しかし、これは本当の「稼ぐ力」が上がったわけではありません。借金が増えれば財務リスクも高まります。
つまり、ROEが高くても、それが「借金による見かけ上の数字」なのか「本当の収益力」なのかを見極める必要があります。
自社株買いでROEを上げるケース
自社株買いを行うと、自己資本が減少するため、ROEは上昇します。
これ自体は株主還元の一環として評価されることが多いですが、「ROEの数字を良く見せるためだけの自社株買い」は注意が必要です。
大切なのは、売上や利益が成長しているかどうか。ROEの数字だけを追いかけるのではなく、その中身を見ることが重要です。
高ROEが持続可能かどうか
一時的に高いROEよりも、安定して高いROEを維持できる企業の方が、長期投資には適しています。
たとえば、一時的な資産売却や特別利益でROEが跳ね上がっても、翌年には元に戻る可能性があります。過去数年間のROEの推移を確認し、安定しているかどうかをチェックしましょう。
PER・PBRとROEの関係
結論から言うと、PER・PBR・ROEは互いに関連しており、組み合わせて見ることで企業の実態がより明確になります。
PBR = ROE × PER
この関係式を覚えておくと、3つの指標のつながりが理解しやすくなります。
PBR = ROE × PER
たとえば、ROEが10%でPERが15倍の企業のPBRは、
PBR = 10% × 15倍 = 1.5倍
となります。
この関係式から分かること
PBRが低い理由は2つしかない
- ROEが低い(稼ぐ力が弱い)
- PERが低い(成長期待が低い)
日本企業のPBRが低いのは、主にROEの低さが原因です。つまり、PBR1倍割れ問題を解決するには、ROEを上げる必要があります。
ROEが高くてもPBRが低いケース
ROEが高くても、PERが極端に低ければPBRは低くなります。これは「稼ぐ力はあるが、将来の成長期待が低い」と市場が判断しているケースです。
3つの指標を組み合わせて見る
| 指標 | 見ているもの | 視点 |
|---|---|---|
| PER | 利益に対する株価 | 成長期待 |
| PBR | 純資産に対する株価 | 資産価値 |
| ROE | 純資産に対する利益 | 稼ぐ力 |
3つの指標を組み合わせることで、企業の全体像が見えてきます。
- ROEが高く、PERが低い → 割安な優良企業の可能性
- ROEが低く、PBRが低い → 稼ぐ力が弱く、正当に評価されている
- ROEが高く、PBRも高い → 稼ぐ力があり、市場も評価している
関連記事:PER(株価収益率)とは?米国株は本当に割高なのか、数字で考える
インデックス投資家はROEをどう見るべきか
結論から言うと、インデックス投資家がROEを過度に気にする必要はありませんが、「市場全体の傾向」として知っておく価値はあります。
個別株選びの指標としてのROE
ROEは本来、個別企業の収益力を評価するための指標です。インデックス投資では個別企業を選ぶ必要がないため、ROEを使って投資判断をする場面は限られます。
ただし、市場間の比較には役立つ
「なぜ日本株のPBRは低いのか」
「なぜ米国株は高いPBRでも買われるのか」
この答えがROEです。
米国企業のROEは日本企業の約2倍。稼ぐ力が高いからこそ、高いPBRでも投資家は買い続けるのです。この構造を理解しておくと、「日本株 vs 米国株」の議論についていけるようになります。
日本株の変化を見守る視点
東証の要請以降、日本企業はROE改善に取り組んでいます。
- 増配や自社株買いの増加
- 政策保有株式の売却
- 事業ポートフォリオの見直し
日本企業のROEが改善すれば、PBRも上昇し、日本株全体の評価が高まる可能性があります。TOPIXに投資している人は、この変化を見守る視点を持っておくと良いでしょう。
関連記事:TOPIXが変わる──次期TOPIXの全貌と、日本株投資への影響
まとめ
ROEは、株主のお金(自己資本)でどれだけ利益を出したかを示す指標です。「稼ぐ力」を測る物差しとして、PER・PBRと並んで重要な指標です。
日本企業のROEは約8〜10%で、米国企業(約15〜20%)の約半分。この差が、日本株のPBRが低い理由の一つです。
ただし、ROEが高ければ良いとは限りません。借金を増やしてROEを上げているケースや、一時的な要因で高くなっているケースもあります。「なぜ高いのか」を見極めることが大切です。
インデックス投資家にとっては、ROEは「参考程度に知っておく」指標です。ただし、「日本株 vs 米国株」の違いを理解するためには、ROEの知識が役立ちます。
PER・PBR・ROEの3つを理解することで、投資ニュースの理解度が格段に上がるはずです。
関連記事:S&P500とオルカンどっちがいい?20代投資家が実践する”正解のない選び方”
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。ROEの水準や株価は常に変動しており、本記事に記載された数値は執筆時点のものです。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
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