暗号資産の利益にかかる税金が、最大55%の総合課税から、20%の申告分離課税へ変わります。株式に近い扱いになる、という話です。
これは検討中の案ではありません。税制側は「所得税法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第12号)として2026年3月31日に成立・公布済みで、条文も政令・省令もできています。土台になる改正金融商品取引法も2026年7月15日に成立し、7月23日に公布されました(令和8年法律第64号)。
それでも「いつから20%になるのか」は、2026年9月時点でまだ確定していません。残っているのが施行日だけだからです。この記事では、その理由を条文から説明したうえでいつ始まる可能性が高いのかを逆算し、あわせてあまり報じられていない注意点を整理します。
この記事の結論
- 雑所得・総合課税(最大55%)→ 譲渡所得・申告分離課税20%(所得税15%+住民税5%)になります
- 開始日は未定。税の適用開始日は「改正金商法の施行の日の属する年の翌年1月1日」ですが、その施行日を定める政令がまだ出ていません
- 改正法の施行期限は公布から1年以内=2027年7月22日まで。したがって2028年1月1日開始の可能性が高い
- 損失の3年繰越ができるようになります。ただしその年に引ききれない損失は「なかったもの」とされ、他の所得とは通算できません
- 暗号資産デリバティブも分離課税に(先物取引と同じ枠へ)
- 暗号資産ETFが解禁される方向です。ただし投信法施行令の改正が前提で、時期は未定
- ⚠譲渡所得になっても、株式や不動産のような特典は付きません。50万円の特別控除も、5年超保有の2分の1課税も適用されません
- 取引内容が業者から税務署へ報告されるようになります(こちらは分離課税より1年遅れ)
1. 何がどう変わるのか
| 項目 | 現行 | 改正後 |
|---|---|---|
| 所得の区分 | 原則雑所得(国税庁の取扱い) | 譲渡所得(事業所得・雑所得になる場合もあり) |
| 課税方式 | 総合課税 | 申告分離課税 |
| 税率 | 最大55%(所得税45%+住民税10%) | 20%(所得税15%+住民税5%) |
| 損失の繰越 | なし | 3年間(特定暗号資産の譲渡所得等からのみ) |
| デリバティブ | 雑所得・総合課税 | 申告分離課税20%(先物と同じ枠) |
| 暗号資産ETF | そもそも組成できない | 政令改正を前提に組成可能・分離課税 |
いずれも復興特別所得税を除いた数字です(金融庁の資料に「※復興特別所得税除く」と注記があります)。上場株式等と同じ扱いになるのであれば、実際の負担は20.315%相当になる見込みです。
条文の入口はこう書かれています。
「居住者等が、暗号資産取引業(仮称)を行う者に対して暗号資産(金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等に限る。以下『特定暗号資産』という。)の譲渡等をした場合には、その譲渡等による譲渡所得等については、他の所得と分離して20%(所得税15%、個人住民税5%)の税率により課税する。」
大事なのは「特定暗号資産」という限定です。登録された銘柄を、登録された業者に譲渡した場合に限って分離課税になります。何でも20%になるわけではありません。
2. いつから変わるのか──ここが確定していません
2026年9月時点では決まっていません。税の開始日が法律の施行日に紐づいているのに、その施行日がまだ決まっていないからです。
税の開始日の決め方
「金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日(以下『適用開始日』という。)以後に行う特定暗号資産の譲渡等について適用する。」
つまり「改正金商法が施行された年の、翌年の1月1日から」です。
その施行日が、まだ決まっていない
改正金商法の附則には、こうあります。
「この法律は、原則として、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。」
暗号資産の規制見直しは、この「原則」のほうに入ります。日付が明記された例外は、無登録業者への罰則引上げなど(公布から20日後=2026年8月12日に施行済み)、開示制度と成長資金供給の見直し(令和9年4月1日)、証券取引等監視委員会の犯則調査手続のデジタル化(令和9年10月1日)の3つだけです。
暗号資産を含む大半の規定が、政令待ちの状態ということになります。
逆算するとこうなります
公布は2026年7月23日。ここから1年以内なので、施行期限は2027年7月22日です。
| 改正金商法が施行される時期 | 分離課税20%の開始日 | 見立て |
|---|---|---|
| 2026年中(残り約4か月) | 2027年1月1日 | 現実的には厳しい |
| 2027年1月〜7月22日 | 2028年1月1日 | こちらの可能性が高い |
2026年中の施行が厳しいと考える理由がもう1つあります。改正法の附則は、既存の暗号資産交換業者に「施行日から6か月」の移行期間を置いています。制度の作り替えに助走が要る前提の作りで、残り4か月での施行は考えにくいところです。
「2027年から20%になる」と書いてある記事を見かけたら、日付の根拠を確認してください。2026年中に施行されない限り、開始は2028年1月1日です。政令が公布されて施行日が決まった時点で、はじめて確定します。
3. 損失を3年繰り越せるようになる(ただし条件つき)
いまは、暗号資産で損を出しても翌年以降に持ち越せません。改正後はこうなります。
「一定の要件の下で、その控除しきれない金額についてその年の翌年以後3年内の各年分の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額からの繰越控除を可能とする。」
上場株式等と同じ考え方で、大きく下げた年の損失を、上がった年の利益と相殺できるようになります。値動きが激しい資産ほど効果は大きくなります。
ただし制限が2つあります。
- 繰り越した損失を引けるのは「特定暗号資産に係る譲渡所得等」からだけ。給与や事業の所得とは相殺できません
- その年に引ききれなかった損失は「なかったものとみなす」とされます。当年に他の所得と通算することもできません
「株と同じ」と言われますが、使い道は暗号資産の中に閉じていると理解しておくのが正確です。
4. デリバティブも同じ枠に入る
暗号資産のデリバティブ取引(特定暗号資産を原資産とするもの)は、先物取引に係る雑所得等の課税の特例の対象に加えられます。つまり日経225先物やFXと同じ枠で、申告分離課税20%+損失の繰越控除になります。
適用は「適用開始日以後に行う特定暗号資産デリバティブ取引に係る差金等決済」から。現物の分離課税と同じタイミングです。
5. 暗号資産ETFは「解禁される方向」
いま日本に暗号資産のETFが無いのは、需要が無いからではなく制度上そもそも組成できないからです。金融庁の資料にも「現在は組成不可(政令改正必要)」と書かれています。
税制側は、投資信託及び投資法人に関する法律施行令(投信法施行令)の改正を前提に、特定暗号資産を投資対象とする投資信託の受益権を一般株式等の範囲に加え、分離課税の対象とすることが決まっています。
ただし、その投信法施行令の改正はまだ行われていません。財務省の解説も「今後予定されている改正により」という書き方で、時期は示されていません。「ETFが出る」ことは決まっていても、いつ出るかは未定です。
実現すれば、証券口座で、株式と同じように暗号資産に投資できるようになります。ウォレットの管理も交換業者の口座開設も要りません。個人にとっては、税率よりこちらのほうが影響が大きいかもしれません。
6. ⚠ 誤解しやすいところ──「譲渡所得になる=有利」ではない
ここは報道でもよく混乱している部分です。
改正で暗号資産は譲渡所得になります。ただし通常の譲渡所得に付いてくる特典は、意図的に外されています。
| 通常の譲渡所得なら | 暗号資産では |
|---|---|
| 年50万円の特別控除がある | 控除しない |
| 5年超保有なら所得が2分の1になる | 適用しない |
| 他の総合課税の所得と損益通算できる | 適用しない |
ここで注意してほしいのは、「いま使えているものを失う」わけではないという点です。現行の暗号資産は国税庁の取扱いで原則「雑所得」なので、そもそも50万円控除も5年超の2分の1課税も使えません。雑所得の損失は他の所得と通算できない、というのも従来どおりです。
正確には「新しく譲渡所得の類型を作ったうえで、そこに通常の特典を付けなかった」ということになります。減税だが、株式ほど手厚くはない——これが実像です。
本当に新しく増える負担は、こちら
譲渡所得の基因となる資産になったことで、「みなし譲渡」の対象に入ります。法人への贈与や著しく低い価額での譲渡などをした場合に、時価で譲渡したものとみなして課税されるという規定です。
個人どうしの売買では通常問題になりませんが、法人へ移す予定がある方は、事前に税理士へ相談してください。
7. 対象になる取引・ならない取引
分離課税になるのは、条文上こうです。
- 暗号資産取引業者に対して譲渡すること
- その銘柄の名称が金融商品取引業者登録簿に登録されていること
この2つを満たさない取引——たとえば海外取引所やDEXでの売買、個人間の売買などは、分離課税の対象外になる可能性があります。
ただし、国内の取引所を使っている方が急に対象外になるわけではありません。改正法の附則には「みなし暗号資産取引業者」の規定があり、既存の暗号資産交換業者は施行日から一定期間(6か月〜最長2年)、登録が完了していなくても対象業者として扱われます。移行の空白で利用者が不利にならないよう手当てされています。
8. 取引が税務署に報告されるようになる
暗号資産取引業を行う者に、報告書の提出義務が入ります。
「その年中に特定暗号資産の取引を行った居住者等の氏名、住所及び個人番号、その取引に係る特定暗号資産の名称その他の事項を記載した報告書を、その取引があった日の翌年1月31日までに、税務署長に提出しなければならない」
証券会社の年間取引報告書と同じ発想で、申告漏れはこれまでより見つかりやすくなります。
ただし時期がずれます。報告書の義務は「適用開始日の属する年の翌年1月1日以後」の取引から。分離課税より1年遅いスタートです。
9. 消費税の扱いも変わります
事業として扱う方に効く話です。暗号資産の譲渡は「有価証券に類するもの」の譲渡として引き続き非課税になります(現行は「支払手段に類するもの」)。ただし課税売上割合の計算上、譲渡対価の5%相当額を算入します。暗号資産の貸付けも非課税です。
いま個人がやっておくこと
あわてて売らない・買わない
開始日が決まっていない以上、「20%になるまで待つ」も「その前に売る」も、判断の土台がありません。まず政令を待つ、が現実的です。
取引履歴を残しておく
区分が雑所得から譲渡所得に変わり、損失の繰越も入ります。取得価額をきちんと追えることの重要性が上がります。取引所からダウンロードできる履歴は、いまのうちに手元へ保存しておいてください。
どこで取引しているかを確認する
国内の登録業者で、登録された銘柄を売買しているか。ここが分離課税の対象になるかどうかの分かれ目です。
まとめ
- 最大55%(所得税45%+住民税10%)の総合課税 → 20%(所得税15%+住民税5%)の申告分離課税(いずれも復興特別所得税を除く)
- 税制は令和8年法律第12号として2026年3月31日に成立・公布済み。残っているのは施行日だけ
- 開始日は未定。「改正金商法の施行日の属する年の翌年1月1日」からで、その施行日が政令待ち
- 公布は2026年7月23日、施行期限は2027年7月22日。2028年1月1日開始の可能性が高い
- 損失は3年繰越可能。ただし引けるのは暗号資産の利益からだけで、当年の他の所得とも通算できない
- デリバティブは先物と同じ枠へ。ETFは解禁される方向だが時期未定
- ⚠譲渡所得になっても50万円控除や5年超の2分の1課税は付かない。ただし現行の雑所得でも使えないので「失う」わけではない
- 業者から税務署への報告書義務(分離課税より1年遅れ)
同じ令和8年度税制改正では、NISAのつみたて投資枠も変わっています。あわせてどうぞ。
NISA改正2026まとめ|つみたて投資枠が0〜17歳にも拡大、2027年1月から何が変わるか
免責事項
本記事は2026年9月6日時点の公表資料にもとづく個人の整理であり、投資判断・税務判断を勧誘または助言するものではありません。施行日は本記事の執筆時点で未定です。実際の申告や取引の判断については、税理士等の専門家および最新の公表資料をご確認ください。
参考にした資料
- 所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号/2026年3月31日公布)
- 財務省「令和8年度 税制改正の解説」
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」(2025年12月26日 閣議決定)
- 金融庁「令和8年度税制改正大綱における金融庁関係の主要項目について」(2025年12月26日)
- 金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案要綱」(第221回国会 閣法第57号)
- 参議院・衆議院「議案情報」(令和8年7月23日公布・法律第64号)
- 金融庁「令和8年金融商品取引法等改正(20日後施行)に係る政令の公布について」(2026年7月29日)
- 国税庁「暗号資産に関する税務上の取扱いについて」