「いつか投資だけで生活できるようになりたい」
投資を始めた頃、私もそう思っていました。働かなくても資産が増えていく。好きなときに好きなことができる。そんな生活に憧れていました。
でも、5年間投資を続けてきた今、少し違う考えを持つようになりました。
100%投資収入に頼る生活は、多くの人にとって現実的ではない。そして、それを目指す必要もないのではないか、と。
私自身、今も労働収入がメインです。マネーマシンはまだ小さい。でも、その「小さなマネーマシン」があるだけで、お金に対する不安は確実に減っています。
この記事では、労働収入とマネーマシンをどのような比率で組み合わせるのが理想なのか、私なりの考えをお伝えします。ゴールは「労働をゼロにすること」ではなく、「労働収入とマネーマシンのバランス設計」です。
なぜ「投資100%」は現実的ではないのか
最初に、なぜ投資収入だけで生活することが難しいのかを整理しておきます。
FIREが成立する人はごく一部
FIREという言葉が流行しましたが、実際にそれを達成できる人は限られています。
高収入で、貯蓄率が高く、20代から投資を始めている。そういった条件が揃って初めて、40代や50代で経済的自立が視野に入ってきます。
年収400万円で、生活費を払いながら投資に回せる金額には限りがあります。私のように月10万円を積み立てていても、投資だけで生活できる水準に達するには、20年、30年という時間がかかります。
FIREは夢のある話ですが、再現性が高いモデルとは言えません。
ただし、ここで言う「FIREが現実的ではない」というのは、働くことを完全にやめることを前提にしたFIREの話です。経済的に自立しながら、やりたい仕事を選んで続けるスタイルは、むしろ多くの人にとって現実的なFIREの形だと私は考えています。
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投資収入だけに頼るリスク
仮に十分な資産を築いたとしても、投資収入だけに頼ることにはリスクがあります。
まず、相場は変動します。取り崩しながら生活している状態で暴落が来ると、資産の減少スピードが加速します。インフレや税制の変更も、計画を狂わせる要因になります。
そして何より、精神的なストレスが大きい。相場が下がるたびに「生活費が減る」という感覚になると、投資が安心ではなく不安の源になってしまいます。
「お金の心配をしなくていい状態」を目指していたはずなのに、毎日相場を気にする生活になる。それでは本末転倒です。
労働収入とマネーマシンの役割は違う
ここで整理しておきたいのは、労働収入とマネーマシンは「どちらが優れているか」という話ではないということです。それぞれに違う役割があります。
労働収入の役割
労働収入は、生活費の土台です。毎月確実に入ってくるお金があることで、日々の生活が成り立ちます。
そして、投資の「燃料」でもあります。マネーマシンを大きくするには元本が必要で、その元本は労働収入から生まれます。
さらに、働くことで得られるのはお金だけではありません。スキル、人脈、市場価値といった「非金融資産」も蓄積されていきます。これは、将来の選択肢を広げる重要な要素です。
マネーマシンの役割
一方、マネーマシンの役割は「補助」と「防御」です。
固定費の一部を肩代わりしてくれる。転職や休職を考えるときの心理的なハードルを下げてくれる。労働収入が途絶えたときのバッファになってくれる。
マネーマシンがあることで、「働かなければ終わり」という状態から抜け出せます。
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理想は「比率」で考えること
では、労働収入とマネーマシンはどのようなバランスが理想なのか。私は「比率」で考えることをおすすめします。
フェーズ別の比率イメージ
人生のフェーズによって、理想の比率は変わっていきます。
フェーズ1は「マネーマシン構築期」です。労働収入が90〜100%、マネーマシンは0〜10%。この時期の目的は、とにかく元本を積み上げることです。投資を始めたばかりの20代は、多くの人がここにいます。
フェーズ2は「安心感が出てくる時期」です。労働収入が70〜80%、マネーマシンが20〜30%。固定費の一部をマネーマシンがカバーし始め、「なくても困らないけど、あると楽」という感覚が生まれます。
フェーズ3は「選択肢が広がる段階」です。労働収入が50〜60%、マネーマシンが40〜50%。ここまで来ると、働き方を「選べる」状態になります。週4日勤務にする、年収は下がるけどやりたい仕事に転職する、といった選択が現実的になります。
ここで大切なのは、完全FIREを前提にしていないということです。労働収入をゼロにすることがゴールではなく、バランスを取りながら自由度を上げていく。それが現実的なアプローチだと考えています。
なぜ「50:50」が一つの理想ラインなのか
私が一つの目標として考えているのは、労働収入とマネーマシンが50:50になる状態です。
精神的な安定
収入源が2つあると、どちらかが崩れても即座に詰むことがありません。
労働収入が減っても、マネーマシンがある。相場が下落しても、労働収入がある。この「どちらかがダメでも大丈夫」という状態が、精神的な安定をもたらしてくれます。
関連記事:暴落はギフト──積立投資が市場下落で勝てる科学的理由
行動の自由度
50:50に近づくと、行動の自由度が格段に上がります。
転職、休職、副業、学び直し。「お金のためにやめられない」という状態から、「やりたいから続ける」という状態に変わっていきます。
私が転職で年収を下げる決断ができたのも、投資で少しずつ資産が育っていたからです。労働収入だけに依存していたら、その選択は難しかったと思います。
関連記事:年収450万→400万の転職で可処分所得が増えた話──働き方改革が資産形成を可能にした実体験
投資判断が安定する
生活費を投資に頼りすぎていないことで、投資判断も安定します。
相場が下がっても「生活費は労働収入でまかなえる」と思えれば、慌てて売る必要がありません。長期視点を保ちやすくなります。
生活費を人質に取られた状態で投資をすると、どうしても短期的な値動きに振り回されてしまいます。
私自身の現在地
正直に言うと、私はまだフェーズ1にいます。
労働収入がメインで、マネーマシンはまだ小さい。比率で言えば、95:5くらいかもしれません。
でも、この「5%」があるだけで、不安の感じ方は変わりました。
収入源が2本ある感覚。毎年、少しずつ自動で増えていく部分がある感覚。それだけで、「今の仕事を失ったら終わり」という恐怖が和らいでいます。
マネーマシンは、完成していなくても意味があります。「いつか役に立つ」ではなく、「今この瞬間から」心理的な支えになってくれている。それが5年間投資を続けてきた実感です。
関連記事:年収が下がっても不安が減った理由|お金の見え方が変わった転職の話
「比率」を間違えると起きる失敗
比率の設計を間違えると、どちらに偏っても失敗します。
マネーマシンを過信するケース
マネーマシンに頼りすぎると、いくつかの問題が起きます。
資産がまだ小さいうちに取り崩しを始めてしまう。高い利回りを追い求めてリスクの高い投資に手を出す。相場が下落するたびに精神的に不安定になる。
「投資で早く自由になりたい」という焦りが、かえって遠回りを生むことがあります。
労働収入だけに依存するケース
逆に、労働収入だけに依存することにもリスクがあります。
病気やケガで働けなくなったとき、収入がゼロになる。会社の業績悪化やリストラに対して脆弱になる。いつまでも「時間の切り売り」から抜け出せない。
どちらか一方に偏るのではなく、両方を育てていくことが大切です。
現実的な設計図
最後に、私が考える現実的な設計図をまとめます。
投資はゴールではなく、補助エンジンです。労働を続ける前提で考えていい。比率は段階的に変えていくもので、一気に変える必要はありません。
最初の目標としておすすめしたいのは、「生活費の一部をマネーマシンで賄う」状態を目指すことです。
たとえば、年間70万円をマネーマシンが生み出してくれれば、毎月6万円弱の固定費がカバーされます。家賃の一部、光熱費、通信費。それだけでも、心理的な余裕は大きく変わります。
関連記事:月3万円vs月10万円、20年後の差はいくら?──積立額別シミュレーションと無理のない増額戦略
まとめ

比率で考えることが教えてくれたこと
100%投資に頼る必要はありません。労働収入とマネーマシンのハイブリッドが、多くの人にとって現実的な選択肢です。
比率で考えると、焦らなくなります。「今すぐFIRE」ではなく、「少しずつ比率を変えていく」という発想に切り替われば、日々の積立にも意味を感じられるようになります。
働き続けながらでも、自由度は確実に上げられます。大切なのは、労働収入を「いつか捨てるもの」と考えるのではなく、「マネーマシンと組み合わせるもの」と考えること。
その視点を持つだけで、お金との向き合い方は変わっていくのではないかと思います。
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本記事で紹介している投資の考え方やリターンの数値は、一般的な傾向や筆者の見解であり、将来の成果を保証するものではありません。投資には元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任において行ってください。
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本記事の内容は、筆者個人の体験と見解に基づいています。同様の方法を実践しても、すべての方に同じ結果が得られるとは限りません。
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参考サイト
- 金融庁「資産運用シミュレーション」
- 野村證券「ライフプランシミュレーション」
- 日本FP協会「くらしとお金に関する調査」
- 厚生労働省「働き方改革の実現に向けて」

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